スポーツクライミング と腰痛

スポーツクライミング とは、愛好者人口60万人を超える「ボルダリング」、「リード」、「スピード」の3競技からなる体と頭を両方使うスポーツとして人気のある競技です。

 

2020年の東京オリンピックの追加種目として選ばれたことでさらに盛り上がりを見せている競技の1つ。

室内型のボルダリング施設は現在全国に500件以上にものぼり、過去10年間と比較するとその数は5倍に増えています。

 

そんなクライミングですが、指先だけがかかる『ホールド』と呼ばれるカラフルでポップな突起をスタートからゴールまで全身をつかってたどっていくのが醍醐味なスポーツです。

 

その反面、身体への負担は大きく、怪我が多いことも特徴です。特にクライマーに多い怪我としてオーバーユースによる腰痛や首痛、肩・肘・手首・指痛、捻挫や脱臼、肉離れ、腱鞘の損傷といった外傷によるものなど多岐にわたります。

 

今回はその中でもクライマーに多い怪我として「腰痛」について紹介しようと思います。

1. スポーツクライミング と腰痛

1.1 競技特性

クライミング で他のスポーツと違うのは、『ムーブ』と呼ばれるクライミング 特有の動きや姿勢が求められることにあります。

 

縦や横、斜めといった方向に対し、身体を大きく回旋させる動きや伸展という上に伸び上がる動きが多く伴い、様々なシチュエーション(壁の傾斜)でそのムーブが求められることです。

 

たとえば

スラブ(壁の傾斜が90°以下の壁)のように、

足だけに体重を預けてムーブを起こさなければいけない場面

薄かぶりの壁(壁の傾斜が90~120°くらいの壁)に、

フットホールドとアンダーで踏ん張り耐えなければいけない場面

強傾斜(壁の傾斜が120°以上の壁)で、

両足をフットホールドから離して、体の勢いを弱めるために身体を反らす場面

 

など、ジムで3級くらいのグレードの課題を登るようになると、一度は経験のあるムーブでは無いでしょうか?

上半身に負担のかかりやすいイメージのクライミング ですが、グレードが上がるにつれて求められるムーブが難しくなり全身に負担がかかるのが特徴です。

 

1.2 ほとんどの腰痛は原因不明?

腰痛は特異的腰痛と非特異的腰痛の2つの分類されます。

その8割は非特異的腰痛と診断されています。

(出典: Deyo RA , JAMA. 12;268(6):760-5. 1992)

 

特異的腰痛とは

レントゲンやMRIなどの画像診断にて原因が特定されていることの腰痛のことをいいます。

具体的な診断名をあげると

腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症など

 

非特異的腰痛とは

レントゲンやMRIなどの画像所見と症状の一致しないものをいいます。

なんとなく腰が重たい~ぎっくり腰のように動くのも痛くてツライようなものまで症状は様々です。

 

下肢に痛みや痺れといった神経症状を伴わず、転倒や打撲といった受傷機転の無いクライミング をやっていて腰を痛めた人のほとんどの人はこの非特異的腰痛に分類されます。

 

非特異的腰痛の原因は不適切な姿勢コントロールであったり、筋肉の柔軟性低下、腰を支える筋肉の筋力低下、不適切な生活習慣、心理社会的な問題(不安や恐怖といった身体機能以外の問題)など多岐にわたります。

 

2. 腰痛の原因をさぐる

2.1 不適切な姿勢コントロール

よく姿勢が悪いというと猫背や反り腰をイメージすると思います。

 

たしかに登っている時も姿勢が悪いと腰を痛めやすそうですが、

では、登っている時にずっと姿勢は真っ直ぐでないといけないのでしょうか?

 

ムーブで様々な姿勢を求められるクライミングでは柔軟にどの姿勢でもなれることが重要です。

ただし、自分の姿勢の認識に誤りがあると柔軟な姿勢変化に障害を受けてしまいます。

 

慢性的に腰痛を抱える人は、腰がどう動いているかを感じる「固有感覚」が低下すると言われています。

(出典:O’Sullivan, Peter B Spine: May 15, 2003 – Volume 28 – Issue 10 – p 1074-1079

 

つまり、真っ直ぐな姿勢(反りすぎても、丸まり過ぎてもいないニュートラルな姿勢)と言われる正しい位置に戻せないことが起きてしまいます。

 

たとえば

姿勢を正しているつもりでも、腰が落ちて丸まってしまう。

 

壁への入り込みの意識が強過ぎてずっと腰が反ったままになる。

真っ直ぐのつもりが腰が反り過ぎている。

 

腰の関節は靭帯や筋肉、血管・神経、関節包、椎間板といった様々な軟部組織に包まれています。

丸まったまま、反ったままというのは、その軟部組織に常に伸長・圧迫といったメカニカルなストレスが刺激され続けることになるため痛みを生じてしまいます。

 

適切な姿勢コントロールができなくなってしまい、常に丸まりすぎ・反りすぎるような極端な姿勢コントロールをすることで、関節にとって負担をかけやすくなってしまいます。

 

2.2 柔軟性低下

クライミング は全身運動です。普段の日常生活では使われないような小さな筋肉~大きな筋肉まで使われます。

 

クライミング は自重を使ったスポーツなので使った筋肉は疲労します。

疲労した筋肉はアイシングやストレッチングなどのケアをしないと硬さを生み出す要因になってしまいます。

 

腰の関節は機能的に、可動性よりも安定性が求められる関節だと言われています。

その隣接する、股関節や骨盤周り、背中である胸椎に硬さやモビリティが不足すれば腰への負担となります。

 

2.3 腰を支える筋肉の筋力低下

腰を支える筋肉というと腹筋や背筋をイメージされがちですが、プロサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド選手のような綺麗に割れた6パックを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。

 

腹筋には、腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の4つの筋肉から構成されます。6パックと言われるような表面にある腹直筋や腹斜筋のようなアウターマッスルだけではなく、より深部に存在する腹横筋と呼ばれるようなインナーマッスルとの協調性が重要と言われています。

 

そんなインナーマッスルですが、手軽にトレーニングできるのはプランク種目が有名です。

 

熱心なクライマーなら一度は聞いたり、経験はあるのではないでしょうか。

プランクやいわゆる体幹トレーニングをやったことのある方ならこんな経験ありませんか

 

「やたら首・肩が張る、終わった後に腰が痛い」

 

実はプランクや体幹エクササイズも難易度の調節をしないと、腰を痛めた後やインナーマッスルの筋力が不足した状態で行うと、「代償動作」といわれる不適切な動作癖でインナーマッスルの弱さを他の筋肉で補ってしまうことがよくあります。

 

2.4 不適切な生活習慣

クライミング で痛いのになんで生活習慣なんだ、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

日本人は世界で一番座る時間が長い国と報告されています。
(出典:Bauman Am J Prev Med  41(2):228 –235 2011)

 

仕事中や普段の生活でだんだん下の写真のような姿勢になる方たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

 

この姿勢を続けることで、腰の関節のクッションである椎間板に負担がかかりやすいと言われています。また、ハムストリングスは縮んだままになるので硬くなりやすく、腰が丸まることで体幹の筋肉の筋力低下にもなり得ます。

 

クライミング をしている以外の時間にも腰へ負担をかけているかもしれないということですね。

3. まとめ

クライミング だけではなく、腰痛は非常に多い訴えです。

その上、繰り返し癖になってしまうことも多いです。

一度痛めた後は、痛みが落ち着けばクライミング がリハビリだ!と思う方もいらっしゃるかもしれません。

ほとんどの腰痛は1ヶ月ほどで軽快してしまうことがほとんどです。

ただ、それは患部の治癒が終わっただけで身体機能は低下したままでクライミング することになるので、繰り返し痛めてしまう原因になってしまいます。

腰に不安のあるクライマーはぜひ一度相談しにいらしてください。

当院のリハビリテーションでは、スポーツ復帰に向けての段階的なストレッチ・
運動処方、必要な動作練習・指導を行います。

クライミング 経験のあるスタッフや腰・スポーツ疾患に非常に経験を積んだセラピストが対応させていただきます。

リハビリテーション科 理学療法士 佐藤 陽之樹

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