
こんにちは、理学療法士の中束宣仁です。
2月26日にJリーグの2021年シーズンが開幕しました。
昨シーズンはコロナウイルスの影響でJ2からの昇格はありましたが、J1からの降格がありませんでした。
その為、18チームだったのが今シーズンは20チームでのリーグ戦となります。
ところでみなさん、”サッカーの走り”と聞いてどんな走りをイメージしますか?
100m走のような走りでしょうか?
マラソンやジョギングのような走りでしょうか?
また歩いていたり、止まっていることも多いよなと感じる方も多いかと思います。
実際のところ、サッカーではどのような走りをしているのでしょうか。
サッカーの試合中の走り
Jリーグでは、2015年からトラッキングシステムを導入しています。
それにより各選手の走行距離や加速度、移動エリア、ボールの動き、審判の動きなど様々なデータが取得できるようになりました。
※トラッキングシステムとは
軍事技術として使用される自動追尾(トラッキング)システムを応用したもので、JリーグではCHYRONHEGO社を採用しています。
専用カメラをスタジアムに設置しピッチ全体を撮影し、選手・ボール・審判の動きをデータ化することができます。
欧州では、2000年代にはすでにサッカーの試合中の走行距離や走行スピードなどのデータ収集や研究がされています。
Mohrら¹⁾は、プロ選手を①FIFAランク1‐10位の代表選手と②FIFAランク20位以内の代表選手に分類し、試合中の走りを移動速度別に分け比較しています。
①FIFAランク1-10以内 | ②FIFAランク20位以内 | |
歩行(6km/h)~ジョギング(8km/h) | 約52% | 約55% |
低速(12km/h)~中速(15km/h) | 約22% | 約26% |
高速(18km/h)~スプリント(30km/h) | 約8% | 約6% |
(Mohrら,2003を参照し作成)
このデータからジョギング(8km/h)以下の速度での移動割合が多く、速度が上がるにつれて割合が少なくなっていることがわかります。
また、トップクラス(①の選手)の方がハイスピード以上での移動割合が多くなっています。
近年のサッカーでは、高強度での運動(スプリント、ターンなど)を繰り返し行える能力は重要な要素とされています。
Mohrら¹⁾は、1980年から90年代初頭と比較して、トータルの移動距離の変化は少ないがスプリント回数は増えているとも報告しています。
これらのことからも、サッカーではゆっくりとした動きを続けながら、スピードを変化させながら走っていることがわかります。
そしてカテゴリーやレベルが上がるにつれてより高速な走りやスプリントなどの走りが必要とされています。
スプリントが多いチームが強い?
このデータは、Jリーグ2020年シーズンでのチーム別の走行データです。
1試合の平均走行距離、1試合の平均スプリント回数の各上位10チームです。

(Jリーグ公式サイト²⁾より引用)
このデータを見ると、横浜F・マリノス、サガン鳥栖、大分トリニータ、湘南ベルマーレはどちらも上位にきています。
走行距離やスプリント回数が上位にきているチームは、リーグ戦の順位も上位にきているのでしょうか?
気になる2020年シーズンのリーグ順位はというと・・・

(Jリーグ公式サイト²⁾より引用)
川崎フロンターレが2位以下のチームを大きく引き離し、優勝という結果になっています。
このシーズンは、”史上最速優勝”(4試合を残して)、”歴代最多勝点”、”歴代最多得点”などの記録も更新しています。
ちなみに、川崎フロンターレの平均走行距離は18位/18チーム、平均スプリント回数は15位/18チームです。
走行距離やスプリント回数が多かったチームの順位はというと、
横浜F・マリノス9位、大分トリニータ11位、サガン鳥栖13位、湘南ベルマーレ18位でした。
つまり走行距離やスプリント回数が多いだけでは、勝てないということになります。
今回は、数あるデータの中でも走行距離とスプリント回数のみを取り上げました。
チームの戦術や選手の特徴、また攻撃で走っているのか守備で走っているのかによっても大きく変わってきます。
Bangsbo³⁾は、選手のポジションの違い、チーム戦術やフォーメーションの違いによる走りのパフォーマンスの変化を報告しています。
優勝した川崎フロンターレの特徴としては、細かなポジションチェンジを繰り返しながら、パスをテンポよく繋ぎ攻撃をするスタイルとなっていました。
近年のサッカーでは、高強度でのパフォーマンス能力は重要視されています。
しかし走行距離やスプリント回数など、”量だけでなく質の高い走り”が必要となってくるのではないでしょうか。
またサッカーの試合を観る際には、選手の特徴やチームスタイルなども気にしてみると新たな楽しみ方ができると思います。
<参考文献・引用サイト>
1)Mohr M et al : Match performance of high-standard soccer players with special reference to develop of fatigue. J Sport Sciences,2003,21;519-528.
2)Jリーグ公式サイト. https://www.jleague.jp/
3)Bangsbo J : PHYSIOLOGICAL DEMANDS OF FOOTBALL. Sport Science Exchange,2014,27,125;1-6.