橈骨遠位端骨折の疫学・病態

 前腕から手指までには多くの骨が存在します(図)。橈骨は前腕にある2本の内の1本で、転倒など手をついた際の外力で骨折することが多い部位です。とくに女性に多く、骨粗鬆症を伴う高齢者ではわずかな外力でも骨折しやすくなります。

<手の構造>

 

 主な症状は、手関節周囲の腫れ、痛み、発赤、熱感といった炎症症状に加え、変形、皮下出血などがあります。骨折しているかの確定診断には単純X線検査(レントゲン)やCTなどの画像診断が必要になります。骨折が認められる場合には、ギプスやシーネなどを用いて骨折部の固定を行いますが、骨折が重篤な場合は手術療法が検討されます。

橈骨遠位端骨折の理学療法評価

理学療法評価では、関節可動域、協調的な動作、筋力、バランスなどを評価します。

 

手関節(手首)の動きには、背屈(はいくつ)、掌屈(しょうくつ)、橈屈(とうくつ)、尺屈(しゃっくつ)があります(図)。一定期間の固定によって、浮腫、皮膚や筋肉の柔軟性低下、関節可動域低下によって動作の制限が起こります。 また、手には手関節以外にも複数の関節が関与するため、各関節の関節可動域の評価を行います。

<手関節の動き>

 

協調的な動作にはさまざまあります。例として、指を開く動作(手指外転)、手の甲を持ち上げる動作(MP関節屈曲)、ダーツの動作(ダーツスロー)、母指と小指をつける動作(対立)などがあります。これらの動作は、動きの評価としても行いますが、エクササイズとしても用いられます。

 <協調的な動作>

 握力はサルコペニアの指標としても用いられており、男性は28㎏、女性は18㎏が基準となります。18㎏以下の場合は、全身の筋力低下の可能性も考慮し、下肢の筋力なども評価します。

 

 橈骨遠位端骨折の受傷機転の多くは転倒です。転倒受傷の場合には、転倒した状況や生活環境の確認、立ち上がりや歩行などの動作、片脚立位などのバランス機能も評価します。片脚立位は15秒できるかが重要です。15秒以下の場合は転倒のリスクが高くなるため注意が必要です。

橈骨遠位端骨折のリハビリテーション

 病態やステージ(急性期・慢性期)などを考慮し、個々の機能障害因子に対して、適切な理学療法を行っていきます。

 

固定期間後の浮腫が強い場合は、自動運動、マッサージ、圧迫(バンテージ)などを行い、早期から浮腫の改善を図ります。 

関節可動域制限に対しては、関節モビライゼーション、皮膚や筋肉の柔軟性低下に対しては、マッサージやストレッチ、運動を行います。運動では、背屈や掌屈など手関節の動きだけでなく、日常生活での動作を考慮した運動も行います。

 

<手の運動>

 

受傷後6~8週経過したら、骨癒合の状態に応じて荷重練習(手をつく、押すなど)を行っていきます。荷重練習を行うには背屈可動域70°以上が必要です。しかし、リハビリ初期では70°以下のことが多くなっているため、非荷重での運動から荷重下での運動へと段階的に進めていきます。

 

手の機能改善とともに、再転倒の予防、サルコペニアやフレイル予防の観点で、下肢の筋力運動(スクワットなど)、立位バランス(片脚立位、タンデム立位など)などバランス機能に対しての運動も行います。

 

橈骨遠位端骨折の理学療法ポイントは、関節の可動域制限および握力を改善していきながら、手をつく動作(荷重練習)、バランス機能向上のためのエクササイズを行います。

 

(執筆:理学療法士 中束宣仁)